固定資産税が5倍?!空き家対策特別措置法について

平成27年に施行された「空き家等対策の推進に関する特別措置法」により、空き家の所有者様にとって今後大きな影響を及ぼす取り決めがなされました。それが「特定空き家等に対する措置」です。
これによって「特定空き家」に指定されてしまうと、固定資産税の住宅用地特例からの除外(固定資産税が3〜5倍になります。)や市町村長からの建物解体処分命令など大きな負担を強いられる事になります。
こちらのページでは、「空き家対策特別措置法」についてその背景と、ガイドライン、特定空き家に指定された場合の流れなどを具体的にお伝えしています。
空き家所有者様のご参考になれば嬉しく思います。
 
 

1.空き家対策特別措置法施行の背景

空き家所有者様に大きな影響を与える「空き家対策特別措置法」ですが、なぜこのような法律が施行されたのでしょうか。
まずはその背景からご説明したいと思います。

(1)増え続ける空き家の数

こちらは法務省統計局のHPより抜粋した空き家総数の年代別グラフです。
昭和38年から始まるグラフは年々右肩上がりを続け、平成25年時点で日本の総住宅数6,063戸の13.5%にあたる820万戸が空き家となっています。
さらに今後も空き家は増え続け2033年には30%を超えるとの予測もあります。

(2)空き家がもたらす弊害

空き家総数、利用されていない空き家の増加は社会に対し様々な弊害をもたらします。その弊害は大きく分けると「社会(地域)に対する弊害」「資産価値の低下」です。
具体的には以下のようなものが挙げられます。

【社会(地域)対する弊害】
・雑草、悪臭などの衛生環境の悪化
・景観の悪化
・不審者による不法侵入、不法占拠などによる治安の悪化
・不審者による放火などのおそれ
・建物劣化による通行人の生命・身体への被害のおそれ
【資産価値の低下】
・建物劣化スピードが早まることによる資産価値(建物価格)の低下
・空き家の印象による地域全体の資産価値(土地価格)の低下
・土地として利用することが出来ないことによる機会損失

つまり、空き家を放置することは百害あって一利なしなのです。さらに世界的に見ると、空き家率が30%を超えると急速にスラム化が進むとの懸念もあります。スラム化すれば当然治安への影響も懸念されます。空き家問題の解消は待ったなしの状況なのです。

(3)なぜ、空き家が増え続けているのか?

このように様々な弊害が考えられる空き家ですが、それでも増え続けるには理由があります。具体的には以下に挙げられるものが考えられます。

【解体費用がかかる】
当然ですが、建物を壊すにも費用が掛かります。現在でいえば坪あたり4万円〜5万円程度となりますので、一般的な建物であれば150万円〜200万円程度の負担が発生するのです。
これだけの費用がかかるとなれば、活用目的(建物の新築や土地の売却など)のない土地の解体が進むはずがありません。

【空き家があると土地の固定資産税が優遇される】
建物が建っている土地は固定資産税が最大1/6に減額される「住宅用地の特例」により優遇を受けています。この特例は建物を解体してしまうと受けられなくなり、土地の固定資産税が3~5倍にまで跳ね上がります。
つまり、空き家は解体するよりも、放置するほうが得という状況なのです。

【世帯の変化と高齢化】
昔と比べ、現在は親と子が同居する世帯は少なく、親が高齢者施設に入居したり、亡くなったりというタイミングで住み継ぐ者がおらず、実家が空き家になってしまうことが増えています。また高齢化率の上昇や、今後団塊の世代からの相続が増えてくれば、ますます空き家は増えると推測出来ます。

(4)空き家対策特別措置法は空き家の増加を食い止める目的がある

上記のように、空き家のもたらす弊害、その増加傾向を考量し、国は空き家を減らす対策を講じる必要性に迫られました。
そこで施行されたのが「空き家対策特別措置法」です。

空き家対策特別措置法の条文に定められる目的は以下の通りです。

第一条(目的)
この法律は、適切な管理が行われていない空家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及びしていることに鑑み、地域住民の生命、信頼又は財産を保護するとともに、その生活環境の保全を図り、あわせて空家等の活用を促進するため、空家等に関する施策に関し、国による基本指針の策定、市町村(特別区を含む。第十二条二項を除き、以下同じ。)による空家対策計画の作成その他の空家等に関する施作を推進するために必要な事項を定めることにより、空家等に関する施策を総合的かる計画的に推進し、もって公共の福祉の増進と地域の進行に寄与することを目的とする。

簡単に申し上げると、空家のもたらす弊害と、増加傾向を食い止める為、法律で市町村に権限を与え、空き家への対策を行いやすくしたのです。そしてその対策とは空き家所有者に空き家の「適切な管理」を努めさせるというものです。
 
 

2. 特定空き家とは?

(1) 特定空き家のガイドライン

空家対策特別措置法は、空き家所有者対し、ある程度強制的に空き家の「適切な管理」に努めさせることが出来る法律ですが、「適切な管理」とは「特定空家等」に該当しないように管理すること、と言えます。
「特定空家等」に関する条文は以下の通りです。

第二条(定義)2
この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態に認められる空家等をいう。

条文より詳しいガイドラインは以下の通りです。

これらを見ていくと、建物の経過年数等で一様に指定される訳ではなく、あくまでも周りに著しい迷惑をかけているか、否かで判断されるように見受けられます。

(2) 特定空き家に指定されてしまったらどうなる?

では、市町村長より「特定空家等」に指定されてしまった場合、その空き家の所有者にはどのような負担が強いられるのでしょうか。
これには大きく分けて2つあります。

① 土地の固定資産税が3〜5倍になる。
土地は建物が建っていると、「住宅用地の特例」を受け固定資産税が1/6(課税標準額が1/6になります。)になる優遇(200㎡まで)を受けています。
しかし「特定空家等」に指定された場合、この特例の対象から除外され、優遇を受けることが出来なくなるのです。
優遇を受けることが出来なくなった場合、年間に支払う固定資産税額は3〜5倍(※1)となり、著しく負担が増えることになります。

※1固定資産税評価額と課税標準額は異なり、
住宅用地の場合・・・・・課税標準額=固定資産税評価額×1/6
非住宅用地の場合・・・・課税標準額=固定資産税評価額×70%(原則)
となる為、原則としては4.2倍、非住宅用地の負担調整率を考慮すれば3〜5倍となります。(そのまま6倍とはなりません。)

② 強制的に空き家を解体させられる。
「特定空家等」に指定された空き家については市町村長の判断で除去(解体)等の命令を出すことが出来、これに従わない場合、代執行(市町村側で強制的に空き家を除去すること)が出来てしまうのです。
さらに、代執行であったとしても、除去に掛かった費用は空き家の所有者へ請求されます。

しかし、これらの強制はいきなり行われるのではなく、段階的な手順の上、執行されます。

(3) 特定空き家の代執行(強制除去)までの流れ

上記の通り、市町村により「特定空家等」に指定されると、最終的には空き家を強制的に除去(代執行)されてしまう恐れがあります。
代執行には手順があり、ここではその流れについてご説明します。

① 特定空家等指定への調査
適切な管理が行われていない空き家と判断された場合、市町村は、まず所有者の事情の把握や空き家の立ち入り調査を行います。

② 特定空家等の所有者等への「助言又は指導」
調査により、特定空家等と認められる空き家について市町村長は、所有者等に対し、除去、修繕、立木の伐採等必要な措置を助言又は指導することが出来ます。改善には相当の猶予期限があります。

③ 特定空家等の所有者等への「勧告」
助言又は指導を受け、猶予期限を過ぎても改善されない場合には、市町村長より勧告を受けることとなります。勧告を受けると、固定資産税の「住宅用地の特例」から除外されることとなり、固定資産税額が3倍〜5倍になります。

④ 特定空家等の所有者等への「命令」
勧告にも従わない場合、空き家の所有者には意見を述べる機会が与えられた上で、市町村長より改善命令が受けることとなります。

⑤ 特定空家等に係る「代執行」
命令を受け、相当の猶予期間を超えても改善がなされない場合、市町村長はついに「代執行」によって建物を強制的に除去することが出来ます。さらに代執行により空き家を除去等した費用については空き家所有者の負担となり、仮に所有者が負担出来ない場合でも一時的に市町村が負担し、のちに所有者へ請求され支払いに応じない場合には国税滞納処分の例による行政上の強制執行を行います。

上記のように、「代執行」までは相当の猶予期限がありますが、逆に言えば改善しなければ市町村が替わりに解体し、その費用を請求するという非常に強制力の強い法律です。全国的にはすでに数十件の代執行が行われています。
 
 

3. 福島市における「空家対策特別措置法」の扱い

「空家対策特別措置法」では法律によって空き家に対する市町村長への権限が大きく認められています。国は基本方針を制定し、その具体的な対策については市町村に委ねられているのです。
全国的にはすでに行われている「代執行」ですが、ここでは福島市においての取り扱いについてご説明いたします。

(1)福島市には空き家に関する条例がない

2017年本日現在、福島市では「特定空家等」を「代執行」する為の条例の制定がありません。つまり、具体的な実施体制が未だ準備段階であると言えます。
しかしながら、今年3月には「福島市空家等対策計画」が完成し、空家等の対策実現に向けて大きく前進したと言えるでしょう。
近い将来、他市町村と同じように「特定空家等」に対する運用がなされることになるでしょう。

(2)福島市における「特定空家等」対象となりうる空家の割合

福島市の調査では現在確認出来る福島市内の空家の数は2888棟とし、外観目視から特定空家等となりうる「著しく建物に破損等が見られるもの」の割合を1.2%(数にすると34軒程度)としています。
しかしながら、「詳細不明」、「一部、建物に破損等が見られるもの」まで含めると実に4割弱が現在時点で何らかの修繕が必要な建物と判断しています。
建物は手を入れなければ、自然に劣化していきますから今後その割合は増えて行くものと予想されます。

まとめ

今回は「空家特別措置法」についてお伝えいたしました。
今後、これまで通りの流れでは空き家問題については悪化の一途を辿ることになります。空き家問題は日本社会全体の問題であり、ひいてはそこに暮らす人々の生活環境に直接影響を及ぼします。

また、空き家の資産価値の側面からも所有者様には早急に対策を考える時期にきているのだと思います。
こちらの記事が空き家所有者様のご参考になれば嬉しく思います。

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