「普通の家庭」ほどモメる不動産相続トラブルは何故起きる?

相続を「争続」と表現する人がいるほど、相続争いは実は身近な問題です。そしてこれは被相続人が財産を沢山持っているから起こる争いではなく、実はその96%以上は5000万円以下の財産相続時に発生しているのです。つまり普通の家庭ほど、相続トラブルが起きているのです。

家督相続があった昔、相続財産は家を継ぐ長男が一括して引き継ぐというのが一般的でした。民法改正によって家督相続が廃止されても、長男が家業を継ぐ、長男が実家を守るといった風習は一般的であったのだと思います。ちなみに、私の実家は農業を営んでおり、私は長男として生まれましたから、そのような風習に育ちました。田舎であればあるほど、その色は濃いものだったのでしょう。

しかし、今はそういった風習も薄まり、ほとんどが核家族、長男が家業を継ぐといった感覚も無くなりつつある様に思います。昔は、その実家の責任を負うという意味でも長男が財産の全てを相続していたのだろうと考えますが、今はその役割を果たしておらず、相続人で平等に財産を分け合うというのが一般的となりました。しかし、この「分け合う」が相続トラブルを引き起こすのです。

そしてトラブルのメインとなるのがやはり不動産なのです。

統計を見ると、相続財産の約50%が不動産となっています。現金や預貯金があまりない相続の場合でも持ち家(実家)が相続の対象になる事は少なくありません。しかし、基本的に土地と建物は物理的に分け合う事が難しい場合が多く(特に実家などの場合には)、分割の方法は

①不動産を相続する者が他の相続人に対し、割合分を現金で支払う。(代償分割)

②相続人全員の共有持分で持ち合う。(共有持分での分割)

③相続不動産を売却し、現金に換えて分け合う。(換価分割)

 

のいずれかの方法を選ばれるケースが多いでしょう。その中で相続時にトラブルになりやすいのが、①代償分割です。これは、不動産の価格をいかに評価するか、といったところが曖昧な点に問題があります。

相続税額を計算する場合、建物は固定資産税評価額、土地は路線価(そ他の方法もあります。)で、となる訳ですが、これらは実際の売却価格(相場価格)よりも2〜3割低くなる事がほとんどです。しかし、代償分割をする多くの場合にその不動産を相続する相続人はその時点で不動産を売却する訳ではありません。(もし売却を前提とするならば、換価分割を行うべきです。)

不動産を相続する者は評価額で割合分を支払いたいと考え、それ以外の相続人は、相場価格で割合分を支払って欲しいと考えます。この金額の差にトラブルの元があります。分割する金額の根拠はあくまでも相続人間で取り決める為です。

では、②共有持分での分割、はどうでしょうか。これは、相続人が相続分割合に応じて一体の不動産の所有権を共有持分で持ち合うという方法です。所有権持分はいかようにも分割する事ができますから、相続分割合に応じて分割出来るという点で一見、不公平感のない分割方法に感じます。実際、相続トラブルを回避する為に、一見公平に見える共有持分での分割で「とりあえず」相続遺産分割を行った不動産が多く見受けられます。

しかし、これは通常最も避けるべき相続遺産分割方法である、と言われます。それは、一体の財産を共有で所有した場合、その有効活用(賃貸など)や売却などを行おうと思っても、常に共有者全員の合意がなければ行えない為です。さらに、この分割方法は、子や孫の代にまで及ぶと、さらに分割が進み(共有権利者が増え)全ての共有権利者の合意を得る事がますます困難となります。最悪の場合、ただ単に少しばかりの権利持分を持っているだけの財産となってしまい、まさに塩漬け状態となってしまう恐れがあるのです。(もしそこに家が建っていれば、放置空き家となってしまう恐れもあります。)

また、不動産は利用するか、有効活用してこそ意味があります。同じ共有持分を持っていたとしても、そこに住んでいる者と、ただ権利持分だけを持っている者では結果として不公平感が生まれてしまうのです。

これらは不動産の特性である「分けにくさ」が起因となっており、現金であれば、1円単位で分ける事が出来る為にこのようなトラブルは起こりづらい訳ですが、③換価分割はこの「現金で分ける」に最も近い分割方法です。

これは、代表の相続人が不動産を一人で相続し、売却した後、その売却金額を相続割合によって分けるという方法です。あらかじめ、売却する事を前提としてその割合を決めた上で代表相続人が相続する訳ですから、不公平感がありません。上記の中では最もトラブルの起きにくい分割方法と言えるでしょう。

しかし、この方法は相続時点で売却を決める訳ですから、それは思い出の詰まった「実家」を手放す決断を、被相続人が亡くなった段階で行わなければならず、心情的に決断出来るかという点があります。また、場合によっては親族などから不謹慎だ、非情だ、との指摘を受ける事も考えられます。やはり合理的な判断だけでは割り切れない部分があります。

以上のように、トラブルの元はやはり「分けにくさ」なのです。また実際の相続が発生した際には、葬儀の準備など、目まぐるしい状況が待っています。その為、そもそも相続の手続きを忘れてしまっていた、という方も少なくないようです。

不謹慎と言われるかもしれませんが、やはり人の死はいつか必ず訪れるものです。それが親であった時、相続によって残された家族が揉めること望んでいる方は一人もいないはずです。そして、揉めない為には、やはり余裕を持った準備(家族間の事前のお話し合い)なのだと思います。特に、心情的に考えれば親側からその準備を提案すると良いのだろうと思います。

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