認知症になってしまった親の高齢者施設入居に伴い空き家となった実家を施設費用捻出のために売却したい、といった場合それが本人(親)のためであったとしても、本人の判断能力が十分でないとして、親を売主として不動産を売却することは出来ません。
そのような場合には親(本人)に成年後見人をつけ、本人に代わって不動産売却を行うことが出来る制度があります。これを「成年後見制度」と言います。
ここでは、不動産売却に関わる「成年後見制度」についてお伝えしています。ご参考になれば嬉しく思います。
目次
1.成年後見制度とは
(1)成年後見制度の概要
成年後見制度は認知症や精神障害など判断能力が十分でない人は不利益を被ることを避けるために、家庭裁判所に申立を行いその本人をサポートする人をつける制度です。
不動産売却で言えば、高齢により判断能力が十分でなくなった親の所有する不動産を親の利益のために子供が売却する場合には、親を「被成年後見人(サポートを受ける人)」、子を「成年後見人(サポートをする人)」として親に代わって不動産売却を行うことができるのです。
加えて、成年後見人は被成年後見人の行った法律行為(契約)を取り消すことも出来るため、例えば訪問販売などで高額な壺などを買わされてしまった場合でもその契約を取り消すことが出来る場合があります。
しかし、すべての行為に成年後見人の代理や取消の権限が及ぶ訳ではなく、スーパーやコンビニで買い物をする、など日常生活に関する行為の範囲では、被成年後見人であっても自由に行うことができます。
(2)成年後見制度の種類について
成年後見制度は、
・本人の判断能力が衰えた後に行う「法定後見」
・本人の判断能力が衰える前に行う「任意後見」
がありますが、「任意後見制度」の利用は全体の1.2%程度であり、約99%が本人の判断能力が衰えた後に行う「法定後見」となりますので、ここでは「法定後見」のみを扱うことにします。
「法定後見」にも、本人の判断能力の状況により3つに区分されます。
・判断能力が欠けている状態の方を対象とした・・・【後見】
・判断能力が著しく不十分な方を対象とした・・・・【保佐】
・判断能力が不十分な方を対象とした・・・・・・・【補助】
これらの区分によって、成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)の同意、代理、取消の権限の範囲が異なりますが、申立全体の約8割が【後見】となっています。
(3)成年後見制度の手続きと流れ
家庭裁判所に成年後見の申立をした際の流れは以下の通りです。一般的には申立から審判確定までは2ヶ月程度の期間を必要とします。
必要書類と申立書類を準備し家庭裁判所へ申し立てます。
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②審理
・申立書類の審査
・調査官による事実の調査
(申立人・本人・成年後見人候補者が家庭裁判所に呼ばれ事情を確認されます。)
・精神鑑定
(申立ての全体の1割程度のケースで精神鑑定がおこなわれます。)
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③審判
一般的には申立書に記載した候補者が選任されることが多いのですが、場合によっては裁判官の判断により弁護士や司法書士などの専門職が選任されることもあります。
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④審判確定・後見登記
裁判所が審判確定後に法務局に登記を行い法定後見が開始されます。
(4)不動産売却に関わる成年後見人の仕事について
成年後見人の仕事は大きくわけて被相続人に代わって財産の管理を行う「財産管理」と被相続人の生活や健康に配慮し、安心した生活が送れるよう代理で契約(介護施設の契約など)などを行う「身上監護」があります
・印鑑、預貯金通帳の管理
・資産収支の管理
(預貯金の管理、年金・給料の受取、公共料金・税金の支払いなど)
・不動産の管理、処分
・遺産相続の手続き 等
・家賃の支払いや、契約の更新など
・老人ホームや介護施設の各種手続きや費用の支払い
・医療機関に関しての各種手続き
・定期的に本人を訪問し生活状況を確認 等
このうち、不動産の売却(処分)は「財産管理」の仕事となります。成年後見人は、被成年後見人のために必要であれば、代理で不動産売買契約を締結することができます。
ただし、被成年後見人の居住用不動産(実家など)については売却する際に家庭裁判所の許可が必要です。
この許可を得るには、売却資金を施設の入居資金に充てるため、など本人のために必要であって、不動産を売却するための合理的な理由がなければいけません。(相続対策や資産運用などでは許可を受けることは難しいと思われます。)
(5)成年後見人が本人の居住用財産を売却する場合の許可について
成年後見人は本人(被成年後見人)の為に本人の所有する不動産を代理で売却することが出来ますが、居住用財産については裁判所の許可が必要です。
これは、本人の居住環境の変化は精神医学の観点から本人の精神状況に大きな影響を与えるとするためです。
ここでの居住用とは、本人の住民票がある、などの形式的な基準だけでなく、本人の生活の本拠がどこにあるかといった生活実態が判断材料となります。
・現在居住していないが過去に生活の本拠となっていた建物とその敷地
・現在居住していないが将来生活の本拠として利用する予定の建物とその敷地
これらのいずれかが該当するものが居住用不動産とされており、現在介護施設に入居し居住していない不動産であっても、居住用不動産に該当する場合があります。
また、居住用不動産の売却が許可されるか否かの基準については以下のものが判断材料となります。
(介護施設費用などの生活費として本人の財産状況上売却する必要があるか。)
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・本人の生活や看護状況・本人の意向確認
(将来の帰宅の見込みや本人の意向)
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・売却条件
(金額等が相当なものであるか)
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・売却後の代金の保管
(売却代金が本人のために使われるように保管されているか)
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・親族の処分に対する態度
(本人の推定相続人などの親族が売却に対して反対していないか)
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これらの要素を総合的に判断して、あくまでも本人のために売却が必要であると判断された場合に家庭裁判所による許可の裁判がなされることになります。
ちなみに、成年後見人が家庭裁判所の許可を得ないで本人の居住用不動産の売却を代理で行った場合には、売買契約は無効となります。
(6)成年後見人には親族が選ばれるとは限らない
被成年後見人にとって非常に重責を担う成年後見人ですが、成年後見人には親族が選ばれるとは限りません。
成年後見人を選出する決定権は家庭裁判所にあり、家庭裁判所は本人の事情や財産の規模、家庭環境、親族の意見などを総合的に判断し成年後見人を決定すつ為、場合によっては親族以外の専門職(弁護士や司法書士)が選出されることが少なくないのです。(以下グラフをご参考下さい。)
近年は親族による本人の財産の使い込みなどが頻繁に起こることから、親族を後見人に選ぶ審査基準が以前より厳しくなっているそうです。
また、成年後見人に選出された場合、成年後見人の仕事は本人(被成年後見人)の判断能力が回復するまで続きますので、本人がご高齢の場合にはお亡くなりになるまで続くことが少なくありません。
成年後見人は辞任する場合にも、家庭裁判所の許可が必要となり正当な理由がなければ認められませんから、成年後見人になるには最後まで責任を果たす覚悟が必要です。不動産の売却の為にだけに後見人になることは現実的ではないでしょう。
まとめ
成年後見制度はあくまでも本人をサポートするための制度であり、成年後見人となる人は非常に重責を担うことになります。また、手続きの時間や手間は相当なものです。
いざ、不動産売却が必要となった時に困らないためにも、空き家の処分などの相続対策や資産整理をお考えの場合には早め早めの準備が重要だと思います。ご参考になれば嬉しく思います。
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